V-FETカスコードパワーアンプの製作
<製作のきっかけ>
年齢が高くなってからほとんど音楽を聴くことがなくなり、オーディオに対する考え方が変わりました。
今はテレビの音楽番組や映画・DVDをテレビの光出力でDACを通して聞くのが主になっています。
映画のセリフの聞き取りやすさが重要で、オーディオは普通に良い音で鳴ればOKになりました。
映画のセリフの聞き取りやすさは2A3シングルアンプが抜群なので、2A3シングルアンプをメインに使ってきました。
2A3シングルアンプは1993年製作なので、27年が経過しています。
新しいアンプを作る気力も置く場所も無いので、手持ちのアンプをリニューアルしていくことにしました。
改造前のアンプ
1992年頃製作したMOS-FETパワーアンプが一番古く使わなくなっていたので、リニューアルすることにしました。
MOS-FETパワーアンプはAクラス15Wx2の出力で2SK134/2SJ49のパラPPとしています。
窪田式パワーアンプのV-FETとMOS-FETのカスコード接続パワーアンプが作りたくなって2013年にV-FET 2SK60/2SJ18を2ペア購入していました。
65歳の年金をもらえる年齢になり、そろそろ作らないと永久に作れないと思い製作を決意しました。
購入したV-FET
改造前アンプ部回路図
改造前電源部と電源廻りの配線
改造前のアンプ内部です。
シャーシーアースは電源ケミコンの中点から直近に2ヶ所取っています。
電圧増幅段のトランスはシャーシ内に左右独立で設置しています。
<設計コンセプト>
電源ケミコンは40年前ぐらいに購入の物なので、交換することにします。
バイパスコンデンサーの電解コンデンサーは撤去してフィルムコンデンサーだけにすることにしました。
左右別電源を左右共通にして電源電圧を上げてハイパワー化と回路のシンプル化をして、電圧増幅段を色々取り替えて今まで作りたかった回路を試せるようにする。
今回は終段をV−FETとMOS−FETカスコード接続の改造だけにして、電圧増幅段基板はそのまま使う。
パワーアップに伴い、スピーカープロテクター回路を組み込む。
スピーカープロテクター基板はスイッチサイエンスで販売されているプロテクター基板 PRT-01を使用して省力化しました。
<改造開始>
最初にトランス以外の部品をほぼ撤去しました。
電源ケミコンは日本ケミコンのネジ端子のKMHを採用しました。
同じ容量ですが旧松下のケミコンより一回り小さいです。
交換後の音質差は判別できませんでした。
プロテクター基板です。
MOS−FETスイッチを使用して、ミューティングと出力の0.6V以上のDCオフセットでスピーカー保護リレーが動作します。
アンプのDCオフセット調整中に基板上のLEDの点滅で動作が確認可能です。
<回路図>
終段NO-NFB上下対称回路の窪田式アンプ回路を採用しています。
V−FETとMOS−FETカスコード接続も窪田式アンプのオリジナル回路です。
改造前との違いは2SB648Aのエミッタに半固定抵抗500Ωと2SD668Aエミッタ抵抗220Ωを追加しました。
理由は出力のDCオフセット電圧調整が2SB648A/2SD668Aの電流を1個あたり14mAぐらいまで流さないとゼロに出来ないことと、そのためトランジスターの温度が触れないほど熱くなるためです。
初段の2SK246/2SJ103の電流を2.5mAにして、2段目2SB648A/2SD668Aの電流は5mA×2程度にして無理のない動作にすることにしました。
2SK134/2SJ49のバイアス電流は250mAにしています。
その時のバイアス電圧は2SK134は約+1V、2SJ49は約-1.3Vになっています。
電源部回路です。
アンプ部への電源供給はプロテクター基板を通しています。
シャーシーアースは電解コンデンサーの中点から直近に落としています。
電源トランスの一次側は100Vだと、33.4V程度の電圧になり、電解コンデンサーの耐圧ギリギリなので110Vタップを使用しました。
100Vタップだとスイッチオフの時に気になる大きさのポップノイズが出ていたのですが、110Vタップでは気にならない大きさのポップノイズになったので結果オーライです。
<製作>
改造後のアンプ内部です。
回路図では省略していますが、電源ケミコンのプラスとマイナス間にLEDパイロットランプを入れています。
定電流ダイオード10mAと3.3KΩを組み合わせてLEDを点灯しています。
電源電圧が60V程度と高いので熱くなっています。
改造後のアンプ後ろ側です。
放熱器1個にV-FETとMOS-FETを1個づつ取り付けています。
改造後アンプ前側です。
右側の電解コンデンサーが無くなったので空いていますが、将来の改造スペースとして考えています。
上部にボンネットが付くのであまり気になりません。
<完成と調整>
スピーカープロテクター基板はスレッショルド電圧を調整してスイッチオフの電圧変動でミューティングする機能が有るのですが、マニュアル通り調整しても少しポップノイズが出ています。
終段と電圧増幅段の電源を共用したことで、改造前より終段のアイドル電流の変動が大きくなっているようです。
アイドル電流が250mAより少なくなる変動なので問題はありません。ソース抵抗を0.22Ωより小さくするのは難しそうです。
DCオフセット電圧は20mV程度変動しています。
2SB648Aのエミッタの半固定抵抗500ΩでDCオフセット電圧を調整するのですが、電圧が大きく変動するので、スピーカープロテクター基板が簡単に動作してしまいます。
大雑把に2SB648Aのエミッタの半固定抵抗500Ωで調整して、微調整は初段差動回路のソースの半固定抵抗500Ωで調整します。
<測定と試聴>
30年以上前に購入したオシロスコープとオシレータでノイズと発振の有無を確認しました。
100KHzの方形波の波形です。
高周波のノイズが有るため波形が太くなっています。
オシレータからDCが漏れており、アッテネーター無しだとスピーカープロテクター回路が動作して最大出力は測定できませんでした。
無音状態でスピーカーからノイズは聞こえません。
音質は普通に良い音で鳴っています。
<完成アンプの問題点>
今回も電源ラインの引き回しで悩みました。
最初はスピーカープロテクター基板のアースをシャーシーアースしていました。
その場合電源ケミコンの電圧と終段部の電源電圧が5V程度違うのです。
テスターの電圧では電源ケミコンの耐圧を超えています。
これが電源タップを110Vにした理由の一つです。
電源ケミコンのアース電位と終段のアース電位差がテスターで測定すると800Vとか出ています。
シャーシに大きな電磁誘導が生じているようです。
怪現象として無音状態でアンプのノイズを聞こうとしてスピーカーに耳を近づけるとジーというノイズが発生しました。
スピーカーから離れると音は止まり、音楽を聴いているときには普通に動作していました。
原因と思われるのが、ケミコンとケミコンの配線の中点からアースを取ると配線が集中するのでハンダの団子になるのを嫌って片側のネジ端子からアースラインを引いていました。
電源ケミコンの中点からアースを取ると、電源ケミコンのアース電位と終段のアース電位差が800Vから2V程度まで下がり、電源ケミコンの電圧と終段部の電源電圧も同じになりました。
ケミコンの端子間の数センチの配線の長さの差がアースラインに大きなノイズを生じてしまうようです。
最終的にケミコンとケミコンの配線の中点からシャーシアースで安定した動作になりました。
改造完了後のパワーアンプです。
電源のパイロットランプがレッドからグリーンになりました。
改造前はマイナス21V側にLEDを配線していたのをプラスとマイナス間約60V間に配線して大電流でLEDが壊れたので定電流ダイオードと抵抗でLEDを点灯するようにしました。
スピーカープロテクター基板は安定した動作で気に入りました。
MOS−FETリレーに音声信号を通すことによる音質劣化なども感じることはありません。